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情報を刷り合わせての合同での共闘事案というわけじゃあない。
ヨコハマは広いが、
それでもきな臭い雰囲気が起きる場所というくくりが当てはまるところというのは
どうしたって重なってしまうものなのか。
人の出入りなどなくなって久しいのだろう煤けたビルを見下ろして、
そこよりやや高台にあたろう位置の見晴らし場から現場を眺めている人物がある。
そろそろ暑苦しいかもしれない漆黒の外套を肩に羽織り、
正統派三つ揃えをまとっておいでの紳士様だが、
おなじみの帽子の下、赤毛が半分ほど覆った格好の目許は機嫌の悪そうなしかめられようで。
「どうしたね。作戦通りに進んでないのかい?」
恐らくは別件で到着したところ、
顔見知りではあるが畑違いな存在様が
いかにも悩まし気なしかめっ面で佇んでいたため。
どうしたものかと…触れずにいたものか様子伺いをしかけた他の面々から一歩進み出て、
豪胆にも声をかけたのは、珍しく素直に任務についてきた太宰で。
もしかしてこうなっていると判っていて、面白がっての同行だったのだろうかと、
やや事情が把握できている芥川がうっすらと思ったのは、
チっという舌打ち交じり、
現状をますますと苦いものにしたのだろ、探偵社の面々を睨んだのが、
ポートマフィアの幹部様だったから。
まだまだ新人もいいところな身だが、何かと顔を合わせる機会が多く。
この幹部様とというよりも、
このお人が懐に入れて可愛がっておいでの秘蔵っ子くんとの縁が随分とあったから。
そしてそれをなぞるかのように、
小柄なのをたまに忘れるくらいの威容をはらみつつ、
苦々しいお顔の彼が言い放ったのが、
「敦待ちだよ。撤収しようにも出てこねぇんでな。」
五大幹部の中原中也殿、
事態の流れや何やを読んでの行動における判断くらいザクザクと見切れるはずが、
公的機関とつながりもある武装探偵社の面々がやって来てなお、
未練がましく現場から立ち去れないのは事情があるからだと、
吐き捨てるように口にする。
昔は結構大きな商社の本社ビルだったそれか、
今は誰の出入りもない廃墟と化している、十階層はありそうなその躯体の前に
他は撤収させつつも自身は居残っていたポートマフィアの大幹部様。
短波用だろう通信端末機を忌々しげに振って見せ、
「…ジャミングがかかってやがるんだよ。」
強力な妨害電波のせいで、携帯端末での連絡が取れないのだろう。
どうかすると磁場を乱す何かかもしれぬ。
だとしたら、野生の虎の耳目を活用してもいるあの少年には不利な状況なのに違いなく。
「異能ならてめえを投げこみゃあ一件落着なんだがな。」
「おいおい、落ち着き給えよ。」
イラついた表情を見せたのも一時。
部外者までやってきて、こうまで切羽詰まってはと、何やら見切ったものか。
黒ずくめの幹部殿、すうと見るからに大きく息を吸い、
口元へ両手を立ててメガホンを作ると、
「あーつーしーっ。」
いきなり腹の底からの大声を張り上げた中也なのへ、
居合わせた芥川や他の探偵社の面々がぎょっとしたものの、
「おお、さすがは耳がいい。」
こちらは全く動じなかったまま、耳元で手のひらをかざしていた太宰がにこやかに微笑み、
その方向の随分と階上の大きなガラス窓が一気にがしゃーんっと砕け散る。
虎の爪で裂きでもしたか、粉々に割ったらしい破片が降ってきたのへ
「危ないっ。」
大慌てで羅生門で大ぶりな庇もどきを作って、仲間内をかばったが、
黒い傘の向こうでいやに弾んだ声がして、
「中也さんっ。」
破片の後から嬉々として降ってきたのは顔見知りの虎の子くんだ。
ばさーっとか どさーとかいういかにも大雑把な擬音をしょってそうな大胆さだったが、
そんな落下をこちらも難なく受け止めて、
はしゃぐ少年の頭や肩からほこりや砂を払ってやる幹部様。
片腕という余裕で相手を抱えてゆるぎないのが、相変わらずだが物凄い。
とんでもない仕儀を間近で目撃した谷崎や国木田が度肝を抜かれ、
「……まあ、このくらいの脱出劇は日常のうちかもな。」
驚くことでもないものか、
やれやれと苦笑する太宰やこちらへ今になって気が付いたのか、
鼻が利かなくなっちゃって、なんか変なにおいの薬が撒かれてたんですよと、
電磁波の異常に翻弄されてた子が
そんな原始的なことを言いつつ にゃはぁと笑ったのは
自分たちの段取りを詳細までは漏らしたくなかったからか。
「じゃあな。俺らは退くから好きにしな。」
恐らくは別口の事件か何かでやってきた彼らだろうからと、
埃まみれのつなぎ姿した小虎くんを幹部殿が肩の上へと俵のように担ぎ直し、
ちらと一瞥だけ寄越したそのまま、
文字通りの瞬きのうち、あっという間に姿が掻き消えたマフィアの二人。
確かに別件でやってきていた探偵社ではあって、
はっと気を取り直した国木田が、バインダー片手に配置を指示し始めた、
春も深まる昼下がりの一幕であった。
〜 Fine 〜 26.04.18.
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*出だしに『逢魔の扉を前にして』のシチュエーションを少々。
やっぱ楽しかったものでvv
理不尽なお偉方への反発を余裕でかましたり、
破天荒な仕儀で任務をこなす方々なのは
こちらの顔ぶれとも重なるところがあったりします。笑

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